刺身包丁:蛸引きと柳刃

刺身包丁は何故刀身が長いのか

刺身を作るときに多くの板前さん達は“刺身を引く”といいますね。ここにも和包丁の特徴が出ているように思えます。そう、引き切りが主な切り方になるからですね。

刺身包丁の特徴は、かなり刀身が長いことです。これには立派な理由があって、長さが足りないと一気に引ききれないからなのです。一気に引けないと、必然的に前後に動かすことになり、壊さなくてもいい細胞を沢山壊してしまい、結局生臭く見映えの悪い刺身になってしまうからなのです。壊れる細胞の数を最小限度に抑えるために、あの長さが必要になるのです。

そして、適度に刃には厚みがあって重みもありますから、あまり力を入れることなく一気に引ききれるのです。

同じ理由で、切れない包丁で刺身を引くと生臭くなります。切れないから力で切ろうとして、結果的には、魚の身を押し潰すようにしてしまい沢山の細胞を破壊してしまうからですね。

スポンサーリンク

関東型と関西型

刺身包丁にも、関東型と関西型あります。

関東型は“蛸引き”とも言われて、刃が直線的で先端は四角く切り落としてあるような形になっています。また、関西型はその形状が柳の葉や菖蒲の葉に似ていることから“柳刃”あるいは“菖蒲”や“正夫”とも呼ばれます。

タコ引きの方が柳刃よりも刃が薄く、蛸の曲がった足を引くのに都合がいいので“蛸引き”と言われたという説があり、また先端が四角く切り落としてあるのは喧嘩早い江戸っ子が、包丁を喧嘩に使わないため、などいう落語的な節もあります。

現代では柳刃の方が、尖った先端を使って様々なことができるため、関東でもこちらが主流になっているようですね。

シャクリが必要な訳

刺身包丁と出刃には、右利き用には左側に、左利き用には右側にシャクリと言われる窪みがあって、切った素材がくっつきにくく、抵抗がなく切れるようになっていることも大きな特徴でしょう。これがないと、切った素材が片面に吸い付いたり、切っている時に素材が吸い付くため抵抗があって、スムーズに切れないから、うまく考えたものだと思います。

切れる包丁で、鮮度のいい魚を、腕のいい板前さんが引いてくれた刺身は、やはり一味違うものです。

刺身の上手な引き方

(右利きバージョン。左利きは魚を置く位置と包丁を当てる位置が逆になります)

  刺身には平造りとそぎ切りの二種類が代表的な引き方としてあります。平造りは、鮪などの冊をその厚みのまま引く切り方で、まな板の手前左下側に冊を置き、包丁の刃元を冊の右側に刃先が斜め上を向くように当てて(引く厚みの分を考慮してください)、刃を冊の中に滑らすように手首を包丁が少し円を描く要領で動かして、一気に引き切ると上手く引けます。

  そぎ切りは冊をまな板の右下側に置き、包丁の刃元を冊の左側に当てる(引く厚みを考慮してくださいね)。この時、刀身はやや右側に倒して刃先はやや斜め上を向くように注意して、やはり包丁が少し円を描くような感覚に手首を動かして、一気に引き切ると上手くいきます。

包丁関連情報ページの紹介

骨の構造がポイント! 魚の“上手なさばき方”

スポンサーリンク