シーンの長期化と熟成が産んだ変化(ボカロ、ボカロP)

   2014/08/01

この記事の所要時間: 626

手段が目的にすり替わる時

 こうしてボカロの定着が進むと、次第に有名になるためにボカロを使って楽曲を発表しようという人達が現れます。また、中高生のニコニコ動画利用が進むとともに、人生で初めて自ら積極的に聴く音楽がボカロ曲、という世代が出てきます。すると、当然その世代にウケるような曲作りをすることがヒットを飛ばす早道、ということになります。

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映像面の演出も強化

 ニコニコ動画への楽曲アップロードが続くと、そのうちに曲だけではなく映像面の演出も強化されていきます。当初は曲の背景に画像一枚、だったものが次第に手の込んだPVと呼ばれる動画がつくようになっていきました。PVとは音楽に合わせた映像をつけたプロモーションビデオのことで、こうした動画も現在はパソコンと専用ソフトがあれば制作環境は整います。

 ただし、動画を作るには技術とセンスが必要であり、また素材も必要です。素材とはすなわち絵です。絵はイラストSNSで画像を公開しているアマチュアのものを使うのが主流ですが、この絵の選別は動画の再生数に非常に重要なものです。無数に存在する動画の中から一つを選んで再生してもらうためには、キャッチーで技術の高い絵が必要だからです。

PVが再生回数に直結

 当初、PVはアップロードされた楽曲に対し、他のユーザーが勝手につけるというマッシュアップの形が通例でした。しかし、PVがつくことで曲の再生数が加速するようになると、次第に一番最初の楽曲発表時からPVをつけるケースが増えていきます。趣味でマイペースに楽曲を発表するPならともかく、たくさんの再生数を狙っての製作がモチベーションの元となっているPにとっては、PVは必須のものとなっていくのです。
そのため、楽曲作成者とPV作成者がユニットを組むケースが増えていきます。

 楽曲の再生数を稼ぐには、PVを作成できる技術者とイラストレーターの存在が欠かせなくなっていったのです。

当初とは曲風も変化した

 こうして、ボカロ曲は中高生に受けがいい楽曲に綺麗なPVがセットになることが主流となっていきました。こうなってくると、似たような楽曲やPVが増えてくることになります。ボカロムーブメント発生当初に食いついた層は、現在の楽曲は「耳に残らない」と口を揃えます。しかし、若い世代には新しい楽曲が人気を博し、現在ではカラオケに配信されたりCDが発売されオリコンチャートを席巻したり、といった具合に受け入れられていきます。その勢いは現在でもとどまるところを知りません。

ボカロ耳

 若い世代の特色に、いわゆる「ボカロ耳」という物が挙げられます。

 ボカロは極めて高度な歌声合成ソフトですが、どうしても不自然な箇所は残ってしまいます。その不自然さを消すためにPたちの音源調整テクニックが磨かれてきたのですが、若いボカロファンはその不自然さを味として受け止めてしまっているのです。極端な場合は、その不自然さない歌声では逆に物足りないということすら起きています。

ボカロの高音を耳当たりよくする方法

人間には歌えないような曲も登場

 またボカロは人間のように息の長さに制限されること無く歌うことが出来ますから、人間では歌えない極端に長いフレーズや早口なども対応できます。そういった、ボカロならではの曲をより好む層も現れたのです。こうした楽曲は、その内容とともに一般層には受け入れられにくいものとなっていることが多いのです。
これは、当初のPたちがミクを人間そっくりに歌わせようと努力したこととは相反する傾向といえるでしょう。

均一化が進みと表層的な評価増える

 中高生という世代は昔からコミュニティに参加するためのファッションとして楽曲を消費します。かつての小室ファミリーやモーニング娘。のポジションにボカロが収まったのはメジャー化の一端であり喜ばしいことではあるのですが、それと同時にかつてのそれらのように均一化と表層的な評価、そして急速な消費に晒され、また楽曲の傾向が一般ウケしにくいことから隔離化が進んでいるといえます。

実際に歌われることによりPの立場が下がってしまった

 こうした中高生ウケが進んだことと同時に語られるのが、『歌ってみた』による弊害です。

 歌ってみた、とは言ってしまえばカラオケをニコニコ動画にアップロードすることです。これが素人ながらそこそこ上手であればファンがつき取り巻きが生まれ、そのコミュニティでは有名になります。いわゆる、信者がつくといわれる状態です。

 この歌ってみたが、なにかボカロ曲を歌って再生数を稼ぐと、その楽曲を自分が有名にしたと勘違いし、Pを下に見るという状況が発生しているのです。

 Pからしてみれば『歌ってみた』は自分の著作物の無断使用です。その気になれば著作権違反申告されても仕方ない立場であるにも関わらずの増長により軋轢が発生するケースが少なくないのです。

夢見る若者を食い物にするケースも

 また、「歌ってみた」からの歌手デビューを夢見る若者に擦り寄り、動画のエンコードやミキシングのために高い金を取るという人たちもでてきました。メジャー化を夢見る若手のPもこうした人たちの世話になるというケースが増えており、ボカロというシーンの長期化に伴い、金に絡んだ様々な問題が噴出しているのです。

 こうしたことはニコニコ動画の内部のコミュニティで行なわれていることなので今のところ直接はボカロの瑕疵にはあたりませんが、今後の展開には注視が必要でしょう。

 もちろん、こんなキナ臭いことばかりでもありません。

初音ミクとボカロたちの活動

 初音ミクとボカロたちは、近年ライブを行なうようになりました。バンドの演奏にあわせ、ボーカルの音声をリアルタイムで出力する型式で、しかもSEGAの開発による3Dプロジェクターによる立体映像で3Dモデルのボカロたちがリップシンクし、ダンスを披露するという型式です。

海外で日本語の歌で成功は前代未聞

 このライブは国内でも満員御礼を続けているだけでなく、アメリカやシンガポールなど海外での公演も成功させるという人気ぶりです。日本語の歌を歌う歌手が、アメリカでライブ会場を満員にするなどといったことは今まででは到底考えられないことです。

 こうして初音ミクは日本のアイドルとして世界でも広く認知されることになりました。

誰でも作品を作り発表できる

 また、ボカロの登場と作品紹介の場が定着したことにより誰でも作品を作り発表できる場ができたことは非常に画期的で、それはGoogle ChromeのCMに初音ミクが起用されたことが象徴しています。

 音楽業界に所属せずとも、本業の合間に好きな音楽を作り発表できること。その曲を気に入ってくれた人と繋がりを持て、一緒に何かを作ることが出来るということ。その環境は、創作をせずにはいられない人たちにとってはまさに福音といえるものなのです。
「ミクさんマジ天使」
という言葉は、創作者の偽りない本音であり、ミクが創作行為のアイコンとなったことを示しているのです。

2013-02-10再編集

ボーカロイドシーンの来し方行く末 なぜ彼らは無償で曲を発表し続けるのか
ボカロ、ボカロPってなんなの
元音楽青年たちへの福音
商業化の試み 趣味人の思考は「普通の人」には想像がつかないのです
●手段が目的にすり替わる時。シーンの長期化と熟成が産んだ変化
メジャー化のために一皮むける必要はあるのか。芸能の根本を問うかもしれないボカロ

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