ドイツサッカーの変容-純血主義から多様化へ

   2019/03/04

 ドイツ代表のサッカーといえば、一昔前まではよく言えば堅実悪く言えばつまらない、ベテラン揃い、よって面白くはないが結果はバッチリ出すというイメージの方が多いと思います。ユニフォームのワッペンの上についている3つの星マークが示す通り、実際に西ドイツ時代から数えてワールドカップで3度の優勝、選手としても監督としてもワールドカップを制したベッケンバウアーの存在など、強さでいえば圧倒的なのがドイツです。

 しかし、20世紀末から21世紀初頭にかけてドイツサッカー協会は大きな路線変更を行ないます。結果を出すだけでなく、魅力的なサッカーをしつつ結果を出そうという、苦しい道へと敢えて歩みを進めたのです。
 その足取りを簡単に追ってみましょう。

ドイツ代表の方向転換 純血主義から多様化へ

 ドイツ代表といえば、かつては純血主義で知られていました。時代的に移民が増える以前であったこともありますが、白人しかいないという状態でした。早くから多民族化が進んでいたフランスとは対照的とも言えるでしょう。

 しかし21世紀初頭からの転換期以降、若手中心の起用が始まると同時に黒人が代表入りするなど多民族化が進行しました。これにより、チームのスタイルにも大きな変化が持たされたのです。
 以前は、経験と体格に裏付けされた粘り強さと肉弾戦が特徴でしたが、次第に組織的かつ柔軟なスタイルへと変化し、高い技術に裏打ちされたダイナミックなパスワークや守備などが非常に見ていて面白いプレイ内容になっていったのです。人とボールを動かす、ヨーロッパの現代的なサッカーを体現したかのようなチームであるといってもいいでしょう。
 もちろん、従来の勝負強さも引き継いでいるため安定感がありトーナメントにも強いなど、現代的なだけでなく力強さも持ち合わせています。

 このように多様化により新たな力を得たドイツ代表ですが、代表チームを支える国内リーグ、国内クラブチームはどうなっているのでしょうか。

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国内リーグの変容

 ドイツの国内リーグ、ブンデスリーガに加盟するクラブチームも、代表の方向転換に合わせて多様化を目指すようになっていきました。代表を支えるのは国内リーグですから、リーグの傾向を変えなければ代表の改革もありません。結果を出すだけではなく現代的なサッカーへの移行という代表の改革に、リーグ全体も賛同し実行したわけです。

 その結果は、意外と短期間で現れました。2000年代後半に入り、ドイツのクラブチームがUEFAの国際大会、UEFAチャンピオンズリーグやUEFAヨーロッパリーグで好成績を出すようになっていったのです。

 現代のサッカーは堅実に守るだけでは勝てません。特に国際試合ではそれが顕著です。しかし、ブンデスリーガのクラブチームは現代的な人とボールを動かすサッカーを志向することで国際試合での勝利を着実に増やしていったのです。

 その背景には、まず特徴的な育成方針があります。

ブンデスリーガのサッカークラブチームが日本のそれと最も違うのは、規模と歴史はもちろんですが総合スポーツクラブの一部門であるということです。あるクラブチームがあったとして、そのクラブはサッカーだけでなくバスケットボールや卓球など、複数の種目のクラブチームを同時に運営している事が多いのです。

 そのため、スカウトなどで有望な子供たちを集めエリート教育を行なう場合は、様々な競技の選手候補が集まることになります。そしてクラブの方針として、基礎トレーニングなどを指導する場合は複数の競技の選手だけでなく男女も混合で指導を行なうというところもあります。これは、社会性を養うとともにモチベーションの向上も狙っているものです。若い人は異性の前ではいいところを見せようとするものですし、今後プロとなれば社会との折り合いをつけることが必須であることから、若いうちから慣らしておこうという意図があるようです。

 こういったところは、エリート教育といえば閉鎖環境での純粋培養に走りがちが日本とは大きく違うところです。

 このようにサッカー以外でも多様性のある世界を早くから目にした選手たちが、長じてプロとなっていくわけです。

多民族化 クラブには多くの日本人が在籍

 近年になりEU圏内の積極的な移民受け入れは社会不安を増長しただけで失敗であると言われることすらありますが、ことスポーツの世界においては選手の多様性の確保と囲い込みに大きなメリットをあげてきました。
特にサッカーでは、ちょっとでも素質の有りそうな若手選手はとりあえず代表に招集して試してみる、ということを繰り返していると必然的に囲い込みがなされてしまうことになります。

 代表チームに関する規定として、一度でも代表として試合に出れば、もうその代表チーム以外ではプレイできないからです。たとえばA国とB国の二重国籍をもっているがA国代表で試合に出ると、もうB国は代表に招集することもできないのです。もちろんの自由意志で意中の代表に招集されるまで待つことはできます。しかし、一度出場してやはりそのレベルではなかったと判断されれば、もうどこの代表チームでもプレイできなくなるというリスクが生じます。

 特にフランスで多かったケースですが、移民二世や三世はフランスと親のルーツである国の多重国籍です。そうした背景を持つ若い選手であれば、やはりフランス代表に招集されれば応じてしまうのは無理からぬことでしょう。それで出場して、その器ではないと判断されてしまえば、もう他の国の代表に呼ばれることはないのです。これでは、ライバルが多いフランス代表よりは、親のルーツの国のほうが代表入りは現実的であるにもかかわらず、一度の判断でそのチャンスが永久に失われてしまうということになってしまいます。

 そのため、現在はその選手が20歳以下である場合、一度試合に出ただけならば他の代表チームに招集される権利が消失しないということになっています。

 このルール変更ため以前ほどの無体な状況ではありませんが、現在でもやはり強豪国の代表というネームバリューから多国籍を持つがドイツ代表を選ぶ、というケースは多いです。オドンコールやボアテンク、マリオ・ゴメスなどドイツ以外にもルーツを持つ選手がドイツ代表を選んでいます。

 クラブチームでは外国人枠というものがありはしますが、代表と違い選手の国籍は問いません。代表ですら純血にこだわらない状況ですから、クラブはどんどん多国籍化が進行しています。ブラジルやチリ、ウルグアイなど南米の選手だけでなく、近年は多くの日本人選手が男女ともにドイツのクラブチームでプレイするようになりました。

 昨シーズンはボルシア・ドルトムントに香川真司、シャルケ04に内田篤人、ヴォルフスブルクに長谷部裕嗣、シュトゥットガルトに岡崎慎司、バイヤー・レバークーゼンに細貝萌、ボルシアMGに大津祐樹、バイエルン・ミュンヘンに宇佐美貴史(12-13からホッフェンハイム)が所属しています。
現在男子の日本代表のスタメンは半分近くが海外組、さらにその中の多くがドイツのクラブでプレイしているという状況ですので、マンガでしか考えられなかった世界がほぼ実現しかかっているとも言えるでしょう。

 また女子では大儀見優季がポツダム、安藤梢がデュイスブルク、熊谷紗希がフランクフルトでプレイしています。

 そうした背景には、代表チームの改革に合わせクラブチームでの堅実さだけでなく質の高い現代的なサッカーでの勝利を目指そうという動きが出ているからです。そのためには多様な素質を持ったが必要です。それが多くの外国人に活躍の場を作ったのです。

 この動きは、特に10-11と11-12シーズンにリーグ連覇を達成したボルシア・ドルトムントの前線でよくボールが動くダイナミックで組織的なサッカーによく表れています。そのなかで重要な役割を果たしていたのが当時所属していた香川真司であったことは言うまでもありません。

 すでに12-13シーズンが開幕していますが、今季からニュルンベルクの所属となった清武弘嗣が開幕戦で早速スタメンフル出場で上々の評価を得ており、酒井高徳がシュトゥットガルト、酒井宏樹がハノーファー96、乾貴士がフランクフルトにそれぞれ移籍するなど、ドイツでの日本人の躍進はまだまだ続くようです。

2013-04-02再編集

モダンなサッカーで躍進する若きドイツ代表

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